6月19日、The Next Webが「China tightens indium phosphide checks as AI demand climbs」と題した記事を公開した。この記事では、中国がAIデータセンター向け光学部品の核心素材であるインジウムリン(InP)の輸出審査を強化し、AIインフラの建設速度に影響を与えている状況について詳しく紹介されている。
「禁輸」ではない。許可証が来ないのだ——この一点が、業界関係者を最も頭を悩ませている。
「禁輸」ではなく「審査遅延」という手法
中国当局はInPの輸出ライセンス承認を意図的にゆっくり進めている。記事が指摘する核心は、これが「輸出禁止」ではなく「許可証が届かない」という形をとっていることだ。禁輸であれば外交上の抗議や通商ルールに基づく対抗措置が打ちやすいが、「審査中」という状態はその手口を封じる。禁輸と効果は同じでも、異議申し立ての難度が格段に高い。
市場はすでに反応している。6インチのInPウェハ1枚の価格は、規制強化前の約1,400ドルから約5,000ドルへ、およそ250%上昇した。
業界側の反応も深刻だ。
- 光学チップメーカーCoherentは、今年初めに供給不足を警告した
- 世界第2位のInP基板メーカーAXTは、輸出許可証の問題を「現在直面する最大の課題」と表現している
- CoherentのCEOは米国経済代表団の訪中時に、この許可遅延を直接北京に提起している
AIの「光の配線」を握る素材
AIデータセンターの内部では、何千ものGPUやアクセラレータが互いにデータをやり取りしている。この通信を担う光学トランシーバー(光信号でデータを送受信する部品)の核心素材が、インジウムリン(InP: Indium Phosphide)だ。
データセンターが銅線による電気信号から光ファイバーによる光通信へ移行する「フォトニクス」の流れが加速する中、InPはその中心材料となっており、現時点で代替素材はない。AIが扱うデータ量が増えるほど、チップ間の高速通信需要は高まり、InPの必要量も増える。そのInPの世界生産量の約70%を中国が握っている。
「チップ」ではなく「配線」を狙う
InP規制がAIインフラにとって厄介な理由は、終端製品ではなくインフラ層を標的にしている点にある。
InPが使われるのはトランシーバーや光学部品、つまりデータセンター全体をつなぐ「配線」に相当する層だ。特定のチップが動かなくなるわけではなく、データセンター全体の建設・配線スピードが落ちる。制約はシリコンの障害としてではなく、施設完成の遅延として現れる。
これは米中の技術競争における既視感のある構図でもある。米国が先端チップや製造装置の輸出を規制したのに対し、中国はガリウム、ゲルマニウム、レアアース、そして今回のInPと、素材側の支配力で応じている。
代替生産の構築には「年単位」かかる
中国以外でのInP生産能力の構築は技術的には可能だが、精錬からウェハ製造まで、数年規模の投資が必要だ。現在の不足状況がその投資を加速させるわけでもない。
記事が指摘する「より深い懸念」は先例の問題だ。InPの許可遅延でデータセンター建設が遅れるなら、中国が主要シェアを持つ他の特殊素材でも同じ手が使える。サプライチェーンの多様化が、実際には「単一障害点の連鎖」になりうる。
当面、買い手側は限られた供給をやりくりし、高値を受け入れ、外交チャンネルを通じて許可証の発給を求め続けるしかない状況だ。InP規制の行方は、米中間の技術・貿易交渉の一部となっており、その結論がAIインフラの建設ペースを左右する。
詳細はChina tightens indium phosphide checks as AI demand climbsを参照していただきたい。




