6月25日、Computer Weeklyが「Gartner warns AI model advantage is shrinking」と題した記事を公開した。AIモデルによる競合優位性が一時的なものに過ぎなくなりつつあるとGartnerが警告し、企業がAI活用で成果を出すために何に注力すべきかについて詳しく紹介されている。
モデルの優位性はもはや持続しない
Gartnerのディスティングイッシュト・バイスプレジデント・アナリストであるArun Chandrasekaran氏は、シドニーで開催された「Gartner Data & Analytics Summit」のメディアブリーフィングで、AIモデルによる競合優位性はすでに一時的なものになっていると述べた。基盤となる能力が収束(コンバージェンス)しており、リーダーボードは四半期ごとに入れ替わる状況だという。
各AIリサーチラボは、モデルの「生の性能」を競うだけでなく、ワークフローのオーケストレーションや音声・画像などのマルチモーダル入力処理能力の向上に注力している。音声認識(speech-to-text)モデルの精度は急速に向上しており、企業への電話をAIの自律的な音声エージェントが対応するシナリオが現実味を帯びてきている。
また、地理的な開発トレンドの差異も拡大している。欧米ではプロプライエタリなモデル開発が主流である一方、アジア太平洋地域ではオープンウェイト・オープンソースのモデルが企業のパイロットや本番環境で広く採用されている。Chandrasekaran氏は6カ国を視察した際に、この傾向を直接確認したと述べている。
SaaSの破壊と「コスト爆発」問題
「SaaSpocalypse(SaaSの終焉)」と呼ばれる議論について、Chandrasekaran氏はAIによる破壊は進行中としつつも、短期的な影響は誇張されていると主張した。SaaSプロバイダーはドメイン知識、ワークフロー統合、コンプライアンス対応といった強みを依然として持っており、既存のSaaSエコシステムを突然捨てるリスクをとれる企業は少ない。
ただし、ユーザー単位の価格モデルがSaaS業界の弱点になりつつある。AIエージェントによって少人数で同量の仕事をこなせるようになると、ユーザー数や席数に基づく従来の課金モデルは機能しなくなる。その流れを受け、GitHub Copilot Proはすでにユーザー単位の課金から消費量ベースの課金モデルへ移行している。
この変化は企業の調達担当者に不安を与えている。多くの企業は内部でトークン使用量を計測する仕組みを持っておらず、月次の請求書が届くまで支出を把握できない状況だ。AIの年間予算を1四半期で使い切ってしまう企業の報告も相次いでいる。
AIの成熟度:83%の企業は「まだ途上」
GartnerのAI成熟度モデルによると、**AIを事業全体に本格展開できている企業はわずか17%**。51%は一部の領域で成果を上げているものの、ROIの明確な実証に苦しんでいる。残り32%はアイデア出しや実験・パイロット段階にとどまっている。
Chandrasekaran氏は成熟度を高めるための6つの次元を示した:
- 価値の測定:ROIをKPIとして設定し、ユースケースを評価する
- データ品質:AIはコンテキスト情報の質に直結するため、データ整備が前提
- ガバナンス:リスク軽減のための統制を整備する
- エンジニアリング:企業データに根ざしたシステム構築とデプロイの自動化
- 組織イノベーション:トップダウンとボトムアップの両方の推進を両立する
- 心理的安全性:従業員が自身の将来に不安を感じない文化をつくる
AI活用の本質は「リテラシー」と「プロセスの再設計」
GartnerバイスプレジデントのPieter den Hamer氏は、現在AIエージェントを本番稼働させている企業は全体の約20%にとどまると指摘した。多くの企業がつまずく理由は、適切なユースケースの特定と社内データの品質不足だという。
成熟した企業とそうでない企業の差は明確だ。効果が出ていない企業の多くは、AIを既存のワークフローへの「ばんそうこう」として貼り付けているだけで、プロセスを根本から再設計していない。一方、成果を出している企業はAIをR&D加速、製造品質向上、ビジネスレジリエンス改善に深く組み込んでいる。
また、AIを人間の代替として位置づけるのではなく、人間とAIの協調を基本方針とした企業が高い成果を上げているとden Hamer氏は述べた。そして最終的な成功要因として挙げたのがAIリテラシーの教育だ。財務的リターンとAIリテラシーの育成には驚くほど強い相関があり、組織全階層での研修・ガイダンスが鍵だという。なお、GartnerはAIリテラシーに関する関連レポートも継続的に公開しており、具体的な組織設計の指針として参照できる。
詳細はGartner warns AI model advantage is shrinkingを参照していただきたい。




