6月24日、Computer Weeklyが「Gartner: Prioritise governance to beat AI hype」と題した記事を公開した。この記事では、AIへの投資が急拡大する中でGartnerがITリーダーに対してガバナンスの整備を最優先すべきと提言したことについて詳しく紹介されている。
AIバブルへの警鐘:ROIだけでは不十分
2025年時点で、5社に3社がAIソリューションを本番環境に導入済み、5社に4社がAI投資を倍増させている。しかし、GartnerのディレクターアナリストGeorgia O'Callaghanはシドニーで開催されたData and Analytics Summit(セッション詳細)の基調講演でこう釘を刺した。「目標や組織の野心が明確にならないまま、AI投資を増やし続けることはできない」。
同社のバイスプレジデントアナリストJorg Heizenbergは、AIがもたらす変化はインターネットの登場に匹敵すると位置づけつつも、データおよびアナリティクスの専門家はAIへの野心をステークホルダーの意見を踏まえて再定義すべきだと述べた。特に、AIによる業務変革をどこまで許容できるかを組織として明確にすることが求められる。
コスト予測の難しさ:ITリーダーとデータリーダーの認識ギャップ
AIの事業価値を語る際、最初に出てくる問いは「いくらかかるのか?」だ。しかしO'Callaghanが指摘するように、AIのコストは極めて予測しにくく、しばしば隠れたところに潜んでいる。GPUの稼働時間やトークン消費量など、ベンダーが採用する課金モデルの指標がそもそも事前に見積もりづらい。
ここで注目すべき数字がある。Gartnerの調査によれば、ITリーダーの6割がAIエージェントの予期しないコスト発生を懸念している一方で、データ・AIリーダーの中でその懸念を持つのはわずか2割だ。この認識のズレをHeizenbergは「目を覚ますべき警告」と表現した。
AI関連支出を管理・最適化できている組織は半数以下にとどまる。O'Callaghanは、プロトタイピング段階からコストを追跡し、本番稼働前に各コンポーネントの財務的影響を把握する「コスト駆動設計」の採用を推奨した。たとえば、AIエージェントの駆動に大規模言語モデル(LLM)を使うか、より軽量な小規模言語モデル(SLM)を使うかによって、コスト構造は大きく変わる。
ガバナンスを「コンプライアンス業務」から「価値創出の加速装置」へ
記事の核心がここにある。Gartnerは、AIガバナンスを単なる規制対応ではなく、ビジネス価値の加速装置として再定義することを強く促している。
Gartnerの2025年調査では、AIユースケースの成果に最も満足している組織は、満足していない組織と比べてデータ管理・ガバナンス・人材などの基盤整備に30%多く投資していた。これは成果満足度と投資水準の間に相関が見られるという調査結果であり、投資増加が直接的に成果を保証するわけではない点には注意が必要だ。また、ITリーダーの59%が準備が整う前にGenAIツールの導入を急かされていると感じており、61%が上位マネジメント層や取締役からのプレッシャーを感じていると回答した。
Gartnerはガバナンス強化の3ステップを提示した。
- 統合:リスク管理・データ・サイバーセキュリティなど既存のガバナンス組織を一元化した「AI統合ガバナンスチーム」を構成する。Gartnerはこの統合によって10%の追加ビジネスインパクトを見込む。
- 合理化:統合チームが各種ポリシーを精査・統合し、組織のリスク許容度と責任あるAI利用に関する文化的価値観を反映した一貫したフレームワークに集約する。
- 組み込み:ガバナンスを文化と技術の両面に埋め込む。技術面ではポリシーをコードとして実装(policy-as-code)し、ルールをテックスタック全体で自動執行する。Gartnerは2028年までに専門的なガバナンスツールを活用する組織が規制コンプライアンスのコストを最大20%削減できると予測する。
「コンテキスト」と「人材」が見落とされがちな要素
データのガバナンスが整っていても、コンテキストの欠如がLLMの誤解を招く。「アクティブな顧客数は?」という問いひとつとっても、「アクティブ」の定義が曖昧であればLLMは誤った前提で答えを返す。Heizenbergはセマンティックレイヤーだけでは不十分になりつつあるとして、オントロジーやナレッジグラフなどを組み合わせた「コンテキスト実現レイヤー」の構築を提唱した。
人材面の課題も深刻だ。O'Callaghanは次のように述べた。
AIツールの変更管理とトレーニングには、AIソリューション自体の実装にかかる時間のほぼ2倍の時間が必要だ。これまで手がけてきたどのテクノロジー実装よりも、長いタイムラインと高いコストを見込んでおく必要がある。
Georgia O'Callaghan, Gartner
また、記事中のあるアナリストは「AIに投資して人材に投資しなければ、金をドブに捨てているのと同じだ」と述べており(元記事では発言者の具体的な氏名は明示されていない)、エンジニアリングマネージャーにとって重い一言となっている。Gartnerが推奨するのは「マインドセット→スキルセット→ツールセット」の順で課題を解消するアプローチだ。ツールの選定は最後でよい。
雇用への影響:CDOとCIOで真逆の動き
最後に雇用への影響についても触れられている。CIOの34%が今後3年間で人員削減を見込む一方、**CDOの44%は過去1年間でチームを拡大しており、縮小したのはわずか4%**だ。O'Callaghanは、AIを口実にした人員整理が一部で起きている可能性も示唆しつつ、最終的には「人間の専門性とAIエージェントを組み合わせた生産性の高い融合チーム」がデリバリーチーム(delivery team)の中核になると結論づけた。
詳細はGartner: Prioritise governance to beat AI hypeを参照していただきたい。




