6月25日、Exponential Viewが「🔮 The state of the AI economy」と題した記事を公開した。生成AIエコノミーの市場規模をボトムアップで積み上げた初の包括的レポートであり、過去12ヶ月の売上は1,100億ドル、直近の月次収益を年率換算すると1,750億ドルに達するという試算が示されている。
Exponential Viewは、技術・経済・社会の交差点を分析するニュースレター兼シンクタンクで、Azeem Azharが主宰している。AIや指数関数的技術に関する長期的視点の分析で知られており、今回のレポートはその中でも異例の大規模財務モデリングを伴う定量調査だ。
過去12ヶ月で1,100億ドル、年率換算で1,750億ドルの試算
この数字の最大の特徴は「ボトムアップかつ重複排除(deduplicated)」で積み上げられた点にある。たとえば、ユーザーがAnthropicのClaudeに1ドル支払い、AnthropicがそれをAWSで50セント分処理したとしても、カウントするのは「1ドル」のみ。サプライチェーン上で同じ金額を二重計上しない設計になっている。
成長速度も際立っている。モバイルやインターネット普及期と比較して、約3倍の速さで収益が拡大している。レポートはこの数字の算出に数ヶ月を費やしたと述べており、推計値はどのデータポイントに由来するか追跡可能な「監査可能な数字」として設計されている。
なぜこの数字を出すのが難しいか
AIエコノミーの供給側(GPU、メモリ、冷却設備など)は大手上場企業が担うため、開示情報から把握しやすい。問題は需要側だ。
OpenAI、Anthropic、Cursor、ElevenLabsといった主要プレイヤーの多くは非上場企業であり、財務開示義務がない。一方、Amazon、Google、Microsoftのようなハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)はAIセグメントの収益を一貫して開示していない。
Exponential Viewはこの問題に対し、各社の公式発言、サプライヤー・顧客のデータ、信頼度スコアを付与したリークや自己報告を組み合わせ、各社・各事業部門ごとのP&L・バランスシート・キャッシュフローを積み上げる財務モデルを構築した。
なお、今回のモデルには以下は含まれていない:
- MetaやGoogleの広告収益を押し上げるレコメンドシステムの改善効果
- 大手テック企業の内部ツールによる効率化メリット
- 中国市場のデータ(次バージョンで追加予定)
- システムインテグレーションやプロフェッショナルサービスへの支出
投資回収は成立しているか
業界全体への巨額インフラ投資に対して、収益が見合っているかという問いも分析している。
ハイパースケーラーはChatGPT登場以前からすでに年間約1,200億ドルのCapEx(設備投資)を支出していた。レポートはこの「元々のCapEx」とAI向け追加投資を分離し、コンピュート資産を6年、その他インフラを14年で減価償却するモデルを適用。その結果、ハイパースケーラーに帰属するAI収益は「減価償却費をかろうじてカバーする水準」に達していると結論づけている。
6年という耐用年数の根拠として、以下の2点を挙げている:需要がまだ利用可能なAIコンピュートを上回っていること、そしてGPUフリート(大規模GPU群)の運用効率が向上していることだ。
トークン価格が下がっても総支出は増える
価格低下が市場規模に与える影響も分析されている。需要の価格弾力性の推計によれば、価格が10%下がるとトークン消費量は12〜18%増加し、結果として総支出は増加する。
またレポートは、トークンを課金単位として使いつつも、AI経済の本質的な価値を測る指標としては不十分だと指摘する。代わりに「品質調整済み出力トークン(quality-adjusted output tokens)」——生成されたトークン数、ユーザーに実際に届いたアウトプットの割合、モデルの能力水準を組み合わせた指標——を「AIエコノミーのインテリジェンス指数」として提案している。
今後の需要拡大の見通し
企業の動向についても、欧米の幅広い業種(製造業、保険、金融、製薬など)の経営幹部との会話を踏まえ、「今後AI投資をより積極化する」という一致したシグナルが確認されている。BCGの調査では、調査対象CEOの半数が「AIを正しく活用できるかどうかに自分の職がかかっている」と回答している点も引用されている。
レポートではさらに以下のテーマも個別に掘り下げられている。AI需要が米国電力産業に与えた影響と電力効率の変化については、データセンターの電力消費増大とPUE(電力使用効率)改善の両面が分析されており、単純な電力需要増加の議論を一段深める内容になっている。トークンコストの推移と従量課金モデルが市場拡大に与える効果については、前述の価格弾力性分析と組み合わせることで、価格下落が市場縮小ではなく拡大につながるメカニズムが示されている。さらに価格・能力の異なるシナリオ別にAI需要がどれほど成長するかの4シナリオ分析では、楽観・中立・悲観・停滞の各前提のもとで需要規模の幅を定量的に提示しており、投資判断や事業計画の前提条件として参照できる構成となっている。
詳細は🔮 The state of the AI economyを参照していただきたい。




