6月27日、pbxscience.comが「Schmidt Warns: China's Open-Source AI Strategy Has Slipped Beyond US Control」と題した記事を公開した。元Google CEOのエリック・シュミットが、米中AI能力格差がすでに6ヶ月以内まで縮小したと認め、中国のオープンソースAI戦略は「いかなる手段でも制御できない段階に入った」と警告している。チップ規制の推進者自身がその限界を公言した、という事実の重みは小さくない。
※本記事の元記事はpbxscience.comが出典であり、大手メディアではない。シュミットの発言は2026年5月の公開イベントに基づくが、引用の正確性は元記事の取材に依存している点に留意されたい。
「中国のAIはコントロール不能だ」——シュミット自身の言葉
2026年5月、ワシントンDCで開催された「AI+Expo for National Competitiveness」(シュミット自身のシンクタンク、Special Competitive Studies Project主催)で、シュミットは率直な見解を述べた。
「中国が非常に注力しているのは、この技術を世界中に広く普及させることだ。しかもすべてオープンソースであり、つまり事実上コントロール不能で、我々がどのような形でも制御できない。」
この発言が持つ文脈として重要なのは、シュミット自身がかつて米政府に対中AI輸出規制を積極的に働きかけた当事者であるという点だ。その人物が今、同政策の実効性に疑問を呈している。「失敗」という断定よりも「想定を超えた展開への警告」というトーンで受け取るべき発言だが、その内容は十分に重い。
オープンソース戦略が生む「制御不能」のリスク
シュミットの懸念の核心は、チップ規制の有効性よりも、オープンソースAIの拡散がそもそも規制になじまないという構造的問題にある。
OpenAI、Anthropic、Google DeepMindといった米国の主要AIラボがクローズドな有料モデルを軸に展開する一方、DeepSeekやZhipu AI、Alibabaなど中国勢は強力なオープンウェイトモデルを無料公開してきた。その効率性は西側の研究者の間でも驚きをもって受け止められている。
シュミットが問題視するのは、地政学的競争にとどまらない。自由にダウンロード・改変・再配布できるモデルは、北京とは無関係の第三者による悪用も防ぎようがない。強力なAIの重みファイル(モデルの本体)が一度公開されれば、安全装置を外した改変を誰でも行える状態になる。
米中経済安全保障検討委員会の2026年3月報告書はこの状況を「AIの一帯一路効果」と表現した。開発途上国や資金の乏しい政府が、中国モデルの方が優れているからではなく「無料で使えるから」という理由でデフォルト採用していく構図だ。
「チップ規制はなぜ機能しなかったか」——ハードウェアをソフトウェアで突破
オープンソース戦略と並んで、元記事が取り上げるもう一つの軸が輸出規制の限界だ。
中国の進歩を支えているのが、Huaweiの「Ascend」シリーズというAIアクセラレータ(GPU相当の学習用チップ)だ。NvidiaのGPUへのアクセスを断たれたHuaweiは独自チップを開発し、さらに中国の研究者たちはそのチップが抱えるレイテンシやアーキテクチャ上の制約をソフトウェアのエンジニアリングで補う手法を確立した。シュミットが「乗り越えられないはず」と想定していた壁を、ハードウェアではなくソフトウェアで突破した格好だ。
台湾のDSET研究所がこのExpoで発表した独立調査によれば、HuaweiのAscendロードマップは現行の910Cチップを大きく超えており、将来世代ではメモリ帯域幅が最大9倍に拡大する可能性があるとされる。しかもその技術的手法は、現時点で米国や同盟国の輸出規制の対象となっている独自パッケージング技術とは異なるとされており、規制の実効性にさらなる疑問符がつく。
「6ヶ月差は、我々の世界ではナノ秒だ」
シュミットの発言で最も注目を集めたのが、米中AI能力格差の縮小ペースに関する評価だ。
「1年前は1〜2年遅れていると言っていた。だが最新の分析では、中国は6ヶ月以内まで追いついてきた。我々の世界では、それはナノ秒だ。」
この評価は独立した研究とも整合する。スタンフォード大学の2026 AI Indexは、米中フロンティアモデル間の総合性能差が約2.7パーセントポイントまで縮小したと報告している(ただし高度な推論タスクでは依然として差が残るとされる)。また、Epoch AIの継続的追跡調査では、2023年以降、中国モデルは平均して7ヶ月の遅れで米国の能力水準に追随してきたとされている。
政策的背景——揺れ動く輸出管理
シュミットの警告は、米国の輸出管理政策自体が揺れ動く時期に発せられた。元記事によれば、トランプ政権はNvidiaの特定チップを中国へ輸出することを認める免除措置を承認したとされており、バイデン政権が構築した「小さな庭、高い柵(small yard, high fence)」アプローチの一部が事実上後退したと指摘されている。ただし、この政策変更の具体的な日付や条件については元記事の記述に依拠しており、読者は一次情報源での確認を推奨する。
シュミットは2026年3月のTime誌への寄稿で、米国が同時並行で取り組むべき課題として以下を挙げている:
- フロンティアAI開発の加速
- 計算能力を制約するエネルギーボトルネックの解消
- オープンソース領域での主導権奪還(中国モデルが世界標準になる前に)
チップ規制でも、オープンソース戦略でも、中国はすでに手持ちのハードウェアとソフトウェアで差を詰め続けている。ワシントンが複数の戦線で十分な速度で動けるかどうかが、現在のAI覇権争いにおける核心的な問いだ。
詳細はSchmidt Warns: China's Open-Source AI Strategy Has Slipped Beyond US Controlを参照していただきたい。




