6月28日、The Next Webが「Silicon Valley paid to kill AI regulation, now it wants the rules back」と題した記事を公開した。トランプ政権を資金面で後押しし、バイデン政権のAI規制を葬り去ったシリコンバレーの大手AI企業が、今度は一転して連邦政府による正式な規制フレームワークの整備を求めている——この皮肉な逆転劇を、政治メディアPoliticoの報道をもとに詳しく伝えている。
「規制なし」を求めた業界が、規制を懇願する
トランプ大統領の再選を資金面で支援したシリコンバレーの大手AI企業幹部たちが、今や連邦政府による正式なAI規制の整備を求めている。Politicoが6月27日に報じた内容をThe Next Webがまとめたものだ。
事の発端はトランプ政権の発足直後に遡る。シリコンバレーの億万長者たちはバイデン政権のAI安全政策を「米国のイノベーションを潰す」と批判し、規制撤廃を旗印に掲げるトランプ陣営に多額の献金を行った。バイデン政権が2023年10月に発令したAI安全に関する大統領令は、フロンティアモデル(最先端AIモデル)の開発者に対してリリース前の安全評価と政府への報告を義務付けるものだったが、業界はこれを過剰規制と位置づけ、トランプ政権誕生後に速やかに廃止へと追い込んだ。トランプは就任後、各州によるAI規制を封じる動きにも注力し、6月2日には企業がモデルをリリース前に30日間の審査に自主的に提出する「任意の大統領令」に署名した。
混乱した規制が「バイデン案より悪い」事態に
ところが任意フレームワークは、署名からほぼ間を置かず現実に追い越された。
6月12日、AmazonのCEOが財務長官に安全保障上の懸念を伝えたことを契機に、ホワイトハウスはAnthropicの「Mythos 5」と「Fable 5」(※元記事が報じるモデル名)という2モデルに輸出規制を課した。さらに今週、OpenAIは最新モデル「Sol」(※同)のリリースを政府が承認した約20のパートナー企業に限定するよう当局から圧力を受けた。米国のフロンティアモデルが政府管理のアクセスリストの下でリリースされるのは、これが初めてのケースだ。
匿名を条件にPoliticoに取材に応じた上級AI幹部は、この状況を「事実上の欧州式ライセンス制度」と表現した。主要AI企業が加盟する業界団体「ソフトウェア・情報産業協会(SIIA)」のグローバル公共政策責任者、ポール・レカス氏は「正式なプロセスへの本物のニーズがある」と述べ、「場当たり的なプロセスと一回限りのライセンスに基づくリリース」を避けたいと語った。
SIIAはMicrosoft、Google、IBM、Adobeなど数百社のテクノロジー企業が加盟する老舗業界団体で、知的財産・データ・AI政策などの分野でワシントンへのロビー活動を担う主要組織の一つだ。同団体がAI規制の整備を公に求める姿勢に転じたことは、業界全体のムードの変化を示すものとして注目される。
バイデン政権下でコンピュータチップや先端AIのウェイト(モデルの学習済みパラメータ)の輸出規制に携わった元商務省上級顧問のサイフ・カーン氏は、現政権のアプローチを「リスクへの軽視の反動として生まれた過剰反応」と評した。カーン氏はその手法を「不透明で、ほぼ感覚頼り(vibes-based)」と表現し、「新モデルのリリースに対するほぼ完全なモラトリアムであり、企業の収益に深刻な打撃を与え始める」と指摘した。バイデン政権の最終規則は特定国へのチップやモデルウェイトの輸出規制を想定していたが、国内リリースを阻止しようとはしていなかった点で、現政権の運用とは性格が異なる。
「卵の殻の上を歩いている」
業界がより深刻に受け止めているのは、政府への直接的なロビー活動すら憚られる雰囲気だ。あるAI政策アドバイザーは「少し、卵の殻の上を歩いているような感覚」と語った。積極的にロビー活動を行えば、追加の輸出規制など規制上の報復を招きかねないという恐れが業界に広がっている。
ホワイトハウスのAIアクションプランを執筆し、7月6日からOpenAIの「戦略的未来担当責任者」に就任するディーン・ボール元トランプ政権当局者は、この緊張を認めつつも「政権の懸念は100%正当だが、正当な懸念に対して過剰反応している可能性が高い」と述べた。
なお、6月末にはAnthropicへの輸出規制が一部撤回され、Mythos 5は100社以上の承認企業への提供が可能になった。しかしFable 5は政府が理由を説明しないまま引き続き禁止されている。透明性を欠いたまま個別モデルの可否が決まるこの構造こそ、業界が最も問題視している点だ。
業界側はいま、「先進AIルールに関する実際のフレームワーク」を求める協調した働きかけを準備中だという。レカス氏は、AI企業が安全性への標準化されたアプローチで合意できなければ、同じ予測不可能な扱いを受け続けると警告した。自ら規制の解体を後押しした業界が、今度は「ルールがないことの恐ろしさ」を学んでいる構図は、AI政策の今後を占ううえで示唆に富む。
詳細はSilicon Valley paid to kill AI regulation, now it wants the rules backを参照していただきたい。




