8月11日、Help Net Securityが「An AI tool found 84 flaws in 5G network software and 23 of them still have no fix」と題した記事を公開した。AIエージェントを使った自動脆弱性探索ツールが4G/5Gコアネットワークのソフトウェアから84件の未報告の脆弱性を発見し、そのうち23件がいまだ未修正であるという研究成果を詳しく紹介している。
AIエージェントが5Gコアを「読んで・考えて・攻撃する」
シンガポールの南洋理工大学(Nanyang Technological University)の研究チームが開発した「iFinder」は、3つのAIエージェントをパイプライン形式で動かす脆弱性探索ツールだ。
- 第1エージェント:コードを静的解析し、外部入力が検証なしに使われている箇所を探す
- 第2エージェント:3GPP(5G/4Gの国際標準化機関)の仕様書を参照し、「そのチェックは会話の前段階で行われているのか」を確認する(これが最も多い誤検知の原因になる)
- 第3エージェント:実際に動くエクスプロイトを書き、テスト環境に対して実行し、エラーログを読んで書き直す——成功するか諦めるまで繰り返す
既知の22件のバグに対して試したところ15件を検出(精度約68%)、報告全体の約4分の1は誤検知という結果だった。完璧なツールではないが、手動レビューとPoC付き報告を組み合わせることで、メンテナーが「機械生成のノイズ」として無視しないよう工夫している。
最も深刻な脆弱性:他人のデータ通信を乗っ取る
84件の中で最も深刻なのが、サブスクライバーのデータセッションを攻撃者に横取りさせる攻撃だ。
5Gコアネットワーク内部では、あるコンポーネントが「このユーザーのトラフィックをここに転送せよ」という指示を別のコンポーネントに送る。この内部リンクは、かつてコアが物理的に閉じた部屋に置かれていた時代の設計思想で作られており、受け取り側はほぼ無検証で指示を受け入れる。
攻撃の手順はシンプルだ。正規ユーザーにすでに割り当てられている転送ルールのIDを再利用し、それより高い優先度でフォワーディングルールを送り込む。IDの一意性を検証する仕組みがないため、ネットワークは優先度の高いルールを選び、被害者の通信を攻撃者に流し始める。
この攻撃はオープンソースの5Gコア実装であるOpenAirInterface(OAI)でラボ検証された後、商用5Gコア2つでも再現されている。一方はすでに修正済みでCVE-2026-8233が割り当てられた。もう一方の大手キャリアはまだ対応中だ。
さらに、研究チームは別の侵入経路も確認している。有効なSIMを持つ普通のスマートフォンが、自身のアップリンクデータトンネルの中にネットワーク制御メッセージを隠して送り込む手法だ。これは調査対象の7つのオープンソースコアのうち5つで有効だった。
23件が「CVEあり・修正なし」という現実
開発者が確認済みの84件のうち、58件にはパッチが当たっている。だが7つのプロジェクトのうち3つは何もリリースしていない——つまり23件がCVEナンバーを持ちながら修正コードが存在しない状態だ。
論文の共著者であるZiyu Lin氏はHelp Net Securityにこう説明している。
「この差は主にメンテナーの対応力と開発リソースの問題です。OAIは私たちの報告に返答していません。eUPFは認識していますが、修正は開発リソース次第だと言っています。Open5GS、SD-Core、free5GCは積極的に対応してくれました」
商用コアのテストはやや間接的だ。iFinderはソースコードへのアクセスが必要なため、商用製品には直接適用できない。そのため、オープンソース版で作ったエクスプロイトを再利用する形で検証した。この手法で3件が商用コアでも再現された。
Lin氏は慎重な言い方をしつつも、こう指摘する。「多くの商用5GCはオープンソーススタックをベースにカスタマイズしており、free5GCとOAIにはそれぞれ商用の派生製品があります。上流コードの検証漏れが設計上の前提ごと商用製品に引き継がれる可能性はあります。ただし3件は小さなサンプルであり、結論ではなく傍証と見るべきです」
背景:なぜ今この問題が深刻か
通信キャリアが5Gコアをクラウド環境に移行する動きが加速している。これにより、もともと「閉じた部屋の中にある前提」で設計された内部インターフェースが、設定ミス一つでインターネットに露出するリスクが生まれている。今回の研究はその現実を正面から突いている。
論文は「5G Core Network Security Analysis via AI-Driven Vulnerability Discovery」(arXiv:2607.10315)として公開されている。
詳細はAn AI tool found 84 flaws in 5G network software and 23 of them still have no fixを参照していただきたい。




