8月13日、Smashing Magazineが「New EU Guidelines For AI Labelling」と題した記事を公開した。2026年8月2日から施行されたEU AI法第50条に基づくAIラベリング義務の具体的な内容と、実装上の注意点について詳しく紹介されている。「施行されたばかりだから様子見」では済まない理由が、この記事を読むとよくわかる。
「スパークルアイコン(✨)」では法的要件を満たせない
まず最初に押さえるべきポイントがこれだ。多くのプロダクトがAI機能の目印として使ってきた「✨」(スパークル)アイコンは、EUガイドラインの下では不十分とみなされる可能性が高い。
欧州委員会は公式のEU AIアイコンセットを公開している。「基本的なAI」「完全AI生成」「部分的にAI加工」の3バリアントからなる専用の**"AI"マーク**だ。スパークルが問題視される理由は明確で、「AI搭載機能」を示すものとして使われてきたため、「この特定のコンテンツがAIによって生成された」という意味を伝えるには曖昧すぎる。
さらに欧州委員会は、アイコンを表示するだけでは法的コンプライアンスを満たしたことにならないと明言している。フッターに埋もれた注記、ほんの一瞬だけ表示されるラベル、見えにくいアイコンはいずれも非準拠だ。
準拠するためには:
- アイコンは明確に視認できる位置に配置する
- 「AI-generated」等のプレーンテキストと併記する
- スクリーンリーダー等の支援技術からアクセス可能にする
- コンテンツが共有・ダウンロードされた後もラベルが維持されること
実装の参考として、IBMのCarbon Design SystemがAIラベルのコンポーネントを公開しており、フォームフィールド、テーブル、ダッシュボード等への配置例を確認できる。
何がラベリング対象か
AI法第50条第4項が定めるラベリング対象は以下の4種類だ:
- ディープフェイク — 実在の人物・場所・物・出来事に似せた画像・音声・動画で、本物と誤認させるもの
- チャットボットおよびAIエージェント — 人間ではないことをユーザーに明示する義務
- 完全にAIが生成したテキスト — 公共の利益に関わるトピック(健康・安全・政治・経済・科学等)で、人間のレビューや編集を経ていないもの
- 感情認識・生体認証カテゴリ化ツール
プロバイダー(AIシステムを構築・提供する側)とデプロイヤー(それを使う側)の双方が法的義務を負う。GDPRと同様、サードパーティのAIツールをライセンスしているだけという理由で第50条の適用を免れることはできない。
「編集済み」と「AI生成」の境界線
実務上で判断が難しいのが、AIが生成したコンテンツをどの程度手を加えれば「AI生成」でなくなるか、という点だ。欧州委員会のガイダンスは完全には明確ではないが、以下の整理ができる。
「AI生成」とは見なされないもの:
- スペルチェック、文法修正、フォーマット調整
- 画像のトリミング、色補正
- AI翻訳
「AI生成」と見なされるもの:
- AIによる要約
- 合成画像・コンポジット画像
- 実質的な書き直し
- 写真への要素の追加・削除
重要なのは、「ざっと目を通してから公開した」程度では編集レビューとして認められない点だ。欧州委員会は、編集管理に責任を持つ記名された人物や組織が実質的な関与をした場合のみ、AI生成の開示義務が免除されると明示している。
例外として、クローズドなB2B環境はこの開示義務の対象外となる。
EUだけの話ではない
このルールをEU固有の規制として矮小化しない方がいい。同様の動きは世界規模で進んでいる:
- 中国 — 2025年9月1日から、可視タグとウォーターマーク入りメタデータによるAIラベリングが義務化
- カリフォルニア州 — SB 942(AB 853で改正)がEUと同日の2026年8月2日に施行。タイミングを意図的に合わせている
- 韓国 — 2026年1月22日施行のAI基本法。ディープフェイクラベルの義務付けを明示的に含む包括的AI法として注目される。違反1件あたりの罰金はEUより低く約2万ドル、執行開始まで1年の猶予期間あり
- インド — 2026年2月20日施行のIT規則改正。「合成生成情報」へのラベリング義務と、有害なディープフェイクへの3時間以内のテイクダウンを規定
適用対象の確認が急務
EUのルールはEU域内の企業だけに適用されるわけではない。欧州アクセシビリティ法(EAA)と同じく、EU市民に向けてAI出力を提供するすべての企業が対象だ。日本企業でもEU向けサービスを運営していれば無関係ではない。
欧州委員会はAIコンテンツのマーキング・表示に関するCode of Practiceも公開している。法令のグレーゾーンを確認する際の一次資料として参照する価値がある。
詳細はNew EU Guidelines For AI Labellingを参照していただきたい。




