10月10日、Ars Technicaが「AI coding agents generate more code, but not more software」と題した記事を公開した。AIコーディングエージェントを導入したところ、コードレビューにかかる時間が平均49%増加したにもかかわらず、ソフトウェアの実際のアウトプット量は変わらなかった――そうした研究結果が報告されている。コードを書く速度が上がっても、それがプロダクトに届くまでの時間が同様に伸びており、期待されていた生産性向上が相殺されている実態だ。
背景:高まるAIコーディングエージェントへの期待
GitHub Copilotに始まったAI補完ツールの普及を経て、2024〜2025年にかけては自律的にコードを生成・修正・実行する「コーディングエージェント」が急速に広まった。GitHub Copilot Workspace、Cursor、Devinといったツールが相次いでリリースされ、開発現場における採用が加速している。こうしたエージェントはタスク単位で自律動作するため、従来のコード補完とは一線を画す生産性向上が期待されてきた。
今回取り上げる研究は、そのブームに対して実データで検証を試みたものだ。エンジニアリング組織向けのデータ分析プラットフォームを提供するJellyfish社のデータを用い、ChenとStrattonが実施した。Jellyfishは主に中〜大規模のソフトウェア企業を顧客とし、プルリクエストやレビュー工数といったエンジニアリングメトリクスを収集・分析している。その蓄積データを活用した研究であり、現場に近い粒度の知見が得られている点が特徴だ。
なお、本研究の論文(論文PDF)はfion.acドメインで公開されており、著名な学術リポジトリや査読誌への掲載は現時点では確認されていない。査読前の論文である可能性があり、知見の解釈には一定の留保が必要である。
コードは増えるが、マージされるソフトウェアは増えない
AIエージェント導入後、プルリクエストの提出からコードベースへのマージまでの「レビュープロセス」にかかる時間が平均49%増加した。コードを書く速度が上がっても、それがプロダクトに届くまでの時間が同様に伸びているわけだ。

AIエージェント時代、プルリクエストへの修正要求の頻度が大きく増加している。Credit: Chen and Stratton
レビューが重くなる、具体的な数字
研究は粒度の細かいデータも示している。AIエージェント導入後の変化として:
- 「変更要求あり」のプルリクエストの割合がほぼ2倍に増加
- プルリクエストあたりのコメント数が35%増加
つまり、AIが書いたコードは人間のレビュアーにとって「そのまま通せるもの」ではないケースが著しく増えている。この変化に対応する形で、コードレビューを行うワーカーの割合も14%増加した。
AIレビューはまだ補完的な役割に留まる
AIがレビュー側のボトルネックも解消できれば話は変わるが、研究時点ではその効果は限定的だ。2026年3月時点で測定対象企業の80%が何らかのAIコードレビューを導入済みであるにもかかわらず、AIエージェントが担うのは:
- 全レビューコメントの23.3%
- 全プルリクエストの10.8%
レビュー作業の大部分は依然として人間が担っており、AIレビューは補完的な位置づけに留まっている。
雇用への影響は「有意ではない」
懸念される雇用面への影響については、JellyfishのデータとLinkedInデータを照合した結果、研究者らは「AIによる有意な雇用変化は確認できなかった」と述べている。コードレビュー担当者が増えたことと整合性があるとも見られる。
「まだ学習中」という留保
研究には重要な留保がある。AIコーディングエージェントは依然として比較的新しいツールであり、データのカットオフである2026年3月以降もモデルの大幅なアップデートが続いている。対象企業の95%がAIコーディングエージェントを導入済みである一方、多くはまだ「どの問題にエージェントを投入するのが適切か」という使い方を模索している段階だ。
チームがエージェントの得手不得手を把握していくにつれ、「コーディング時間 vs レビュー時間」のトレードオフは改善される可能性がある。
まとめ
現時点のデータが示すのは、AIによるコード生成速度の向上が、人間によるレビュー時間・工数の増大によって相殺されているという構図だ。大半の企業にとって、AIコーディングエージェントの導入がソフトウェアデリバリー全体のスループット向上に結びついているかは、まだ結論が出ていない問いである。
詳細はAI coding agents generate more code, but not more softwareを参照していただきたい。




