10月9日、TechStartupsが「Nvidia-backed AI startup Firmus abruptly cancels $5 billion IPO as investors question $30.6 billion valuation」と題した記事を公開した。Nvidia出資のオーストラリアAIインフラ企業Firmusが計画していた50億ドルの株式売出し(IPO調達額)を突然撤回した経緯について詳しく紹介されている。
わずか2ヶ月で評価額が3倍に、そして上場断念
Firmusは、オーストラリア・シドニーを拠点とするAIデータセンター運営会社だ。Nvidia製コンピューティングシステムを核に据えたモジュール型「AIファクトリー」を構築・運営する。AIファクトリーとは、GPUクラスタ・専用冷却設備・エネルギーインフラ・クラウドサービスを一体化し、大規模なAIワークロードをエンドツーエンドで処理できるよう設計されたデータセンター施設の総称で、Firmusが同社サービスを説明する際に使う独自の概念だ。
2026年8月、FirmusはNvidia、Coatue Management、Blackstone、Jane Streetらから20億ドルの資金調達を完了し、このときの企業評価額は105億ドル超に達した。それからわずか2ヶ月後の10月、同社はオーストラリア証券取引所(ASX)への上場にあたり、時価総額306億ドルでの評価を市場に提示した。IPOで調達を目指した50億ドルはその一部にあたる新株売出し分であり、時価総額とは別の数字だ。2ヶ月で企業評価額が約200億ドル積み上がった計算になる。
この上場が実現していれば、オーストラリア史上2番目に大きな新株売出しとなるはずだった。
しかし10月9日、Firmusは上場撤回を発表した。声明では「提示された条件は事業の実力と長期的な成長見通しを反映していない」と説明した。
「取締役会は、オファーの条件を進めることが会社および株主の最善の利益にならないと結論づけた」
— Firmus(CNBC経由)
同社はIPO撤回後、プライベート市場での資金調達および代替的な公開・非公開の選択肢を検討するとしている。
投資家が懐疑した「建設中」の未来
Reutersによれば、投資家が問題視したのは主に以下の点だ。
- 評価額の急騰に対する根拠の薄さ
- 限られた事業実績(営業開始からの期間が短い)
- 野心的なデータセンター建設計画に伴う建設・資金調達リスク
- 既存株主向けの条件設定
現在Firmusが稼働させているAIデータセンターはメルボルンとシンガポールの2拠点のみ。オーストラリアと東南アジアで合計5施設を開発中だが、まだ建設段階にある。契約済み容量は900メガワット超と発表されているものの、実際に稼働して収益を生んでいる部分は限られている。
AIデータセンターの建設には、GPU調達、電力確保、冷却システム導入など、収益が出る前に数十億ドル規模の先行投資が必要になる。フィナンシャル・タイムズは、計画容量と実際に稼働している設備の間のギャップを投資家が懸念したと報じている。
MetaとOpenAIとの契約も、評価額の正当化には届かなかった
顧客面では申し分ない実績がある。
9月にはMetaと東南アジアのAI施設でGPUコンピューティング容量を提供する合意を締結。MetaはすでにFirmusのメルボルン拠点で**Nvidia Blackwell Ultra**システムを稼働させている。Blackwell UltraはNvidiaの最新世代GPU「Blackwellアーキテクチャ」の上位モデルであり、大規模言語モデルの学習・推論処理に特化した高性能チップだ。OpenAIとはマレーシアの2施設から専用AIコンピューティング容量を提供する別途契約を持つ。
Nvidia出資、MetaおよびOpenAIとの契約——それだけの実績がありながら、公開市場の投資家は「2ヶ月前の3倍の評価額(時価総額306億ドル)」を受け入れなかった。
AIインフラ投資への懐疑が広がる兆候か
Firmusの上場撤回は、オーストラリア単独の出来事にとどまらない可能性がある。
AI向けデータセンターには世界規模で膨大な資金が流れ込んでいるが、それらの投資がいつ、どれだけの収益に転換されるかは不透明なままだ。今回の件は、パブリックマーケットの投資家が「まだ建設中のインフラ」や「将来の収益予測」を額面通りに評価することに慎重になってきていることを示している。
AIへの需要そのものは消えていない。だがFirmusのケースは、Nvidiaが出資していても、急激な評価額の膨張には公開市場が待ったをかけることを示した。
詳細はNvidia-backed AI startup Firmus abruptly cancels $5 billion IPO as investors question $30.6 billion valuationを参照していただきたい。




