10月12日、becausecuriousが「AI made me into a manager against my will」と題した記事を公開した。AIコーディングツールを使い続けた結果、気づかないうちにエンジニアからマネージャー的な役割へと変容していたという個人的な体験記だ。「意に反して(against my will)」というタイトルが示す逆説——誰も強制しておらず、自由に手書きコードに戻れるのに、戻りたくない——が、記事全体を貫くテーマになっている。
なお、becausecuriousはLessWrongに投稿しているライター・エンジニアで、LessWrongはAI安全性・合理主義・認識論などを主なテーマとする技術系コミュニティだ。個人の体験を通じてAI時代のエンジニアリングの変化を考察するこうした記事が活発に共有される場として知られている。
「気づいたらマネージャーになっていた」
becausecuriousが最初に気づいたのは、自分のコーディングスタイルが、ソフトウェアエンジニアよりもソフトウェア会社のマネージャーに近くなっていたという事実だ。しかも明示的に切り替えを決断したわけではない。Ship of Theseusのように、少しずつ、気づかないうちに変わっていったという。
特に印象的なのは、この変化への複雑な感情だ。「深く集中してコードを書く状態(ディープワーク)は本当に気持ちよかった。でも今はそれがない」と述懐している。複数のAIエージェントを管理している間は、あの集中状態には入れない。失ったものを自覚しながら、それでも戻る気にはなれないという、AI時代のエンジニアのリアルな葛藤が記事全体を貫いている。
ツール採用の変遷:15ヶ月でClaude Codeに至るまで
元記事には、採用したツールとその時期を記録した詳細な表が掲載されている。
| ツール | 公開時期 | 著者の最初の使用 | 採用ラグ |
|---|---|---|---|
| GPT-3 Playground | 2021年11月(待機リスト廃止) | ChatGPT以前(記憶のみ) | 不明 |
| ChatGPT | 2022年11月30日 | 2022年12月 | 1ヶ月未満 |
| GitHub Copilot | 2022年6月GA | 記憶のみ | 不明(元記事にも記載なし) |
| Aider | 2023年5月11日 | 2024年8月 | 約15ヶ月 |
| Claude Code | 2025年2月プレビュー | 2025年7月 | プレビューから約4ヶ月 |
| Codex CLI | 2025年4月16日 | 2025年7月 | 約3ヶ月未満 |
| Gemini CLI | 2025年6月25日 | 2025年7月 | 約1ヶ月未満 |
採用ラグが急速に縮まっているのが一目でわかる。Aiderは公開から15ヶ月後にようやく使い始めたが、その後のツールはほぼリリース直後に試している。AIが提供する価値を実感するほど、次のツールへの警戒心が薄れていったということだ。
Aiderから始まったエージェント管理の原型
変容の転換点として記事が挙げるのが、**Aider**(著者の使用開始は2024年8月)だ。Aider自体は2023年5月に公開されたOSSのAIコーディングアシスタントで、Claude Codeのプレビュー(2025年2月)より約1年9ヶ月早く登場している。チャット画面にコードを貼り付けてレスポンスをまたコードに貼り直すという手作業から解放してくれたが、自前のAPIキーが必要で、編集対象のファイルを自分で明示的に指定する必要があった。
この「ファイルを選んでAIに渡す」という作業が、今のエージェント管理と本質的に同じだとbecausecuriousは振り返る。当時と今の違いは、AIが自律的にコンテキストを探索できるようになったこと、そして任せられるタスクの複雑さが格段に上がったことだ。
2025年7月にClaude CodeとCodex CLIを同時に試したときは、Codex CLIのデフォルトモード("suggest")がファイル書き込みとシェルコマンドのすべてに承認を求めてきたため、Claude Codeに乗り換えたという。Gemini CLIはそれ以上に使いにくかったと一言で切り捨てている。
「自分の意志に反して」の意味
記事のタイトルにある「against my will(意に反して)」について、becausecuriousはこう説明している。
「誰も強制していない。0と1でコードを書きたければ今でも自由にできる。でも正直に言えば、やりたくない。非効率に感じるから」
AIを使う前は手動でコードを書くことの非効率さを知らなかった。AIを知った今、手動に戻ることは「アセンブラや機械語でしか書けなかった時代の人が、高級言語が使えるのに戻る」ようなものだと表現する。AIによるエージェント管理こそが、次の「高級プログラミング言語」だという比喩は、記事の中でも特に鋭い指摘だ。
ただし、ディープワークへの渇望は消えていない。その代替として「文章を書くこと」を見つけ、AIを使わずに書くことで同じ集中状態を取り戻している。元記事自体がその実践であり、本文と意見はすべてAIなしで書かれたと明記されている(タイムライン整理やファクトチェック、脚注の執筆はClaude Codeが担当したと注記されているのも、この記事らしいメタな構造だ)。
AIマネジメントの難しさ:かつて自分がClaude Codeだった
記事の中でもう一つ印象に残る視点がある。becausecuriousは「自分がエンジニアとして働いていたとき、実質的にマネージャーにとってのClaude Codeだった」と書いている。しかし人間の部下とAIエージェントの間には決定的な違いがあった。
- コードレビューが必須だったため、上位エンジニアが必ずコードを確認していた
- テストシステムが整備されており、バグの大半は自動で検出されていた
- 不確かなときは壊滅的な操作を避け、自発的に確認を求めていた
AIエージェントはこれら3点すべてが弱い。だからこそ「AIを管理することは、かつてマネージャーが自分を管理するより、ずっとフラストレーティングだ」というのが率直な感想だ。
詳細はAI made me into a manager against my willを参照していただきたい。




