10月11日、CNBCが「AI may change the price of your Big Mac and groceries」と題した記事を公開した。今週、マクドナルドに対してAIを使った価格設定を巡る連邦反トラスト訴訟が提起されたことを受け、AIによる動的価格設定が食品小売・外食産業に広がりつつある現状と、消費者ごとに異なる価格が提示される「個人別価格」の時代が現実味を帯びてきている背景を詳報している。
マクドナルドへの反トラスト訴訟が火付け役に
今週、マクドナルドに対してAIを使った価格設定を巡る連邦反トラスト訴訟が提起された。訴状によれば、同社はAI駆動の「プライシングエンジン」を使って全米店舗のメニュー価格を設定し、ビッグマックやフライドポテトを過剰請求しているとされる。
マクドナルドはこれを否定しており、「個々の顧客が支払える上限を推定するためにAIを使ってはいない」と公式に声明を出した。フランチャイジーに対しては「意思決定を支援するためのツール、リソース、調査、推奨を提供している」との立場だ。
しかしこの訴訟は、より大きな流れの一端に過ぎない。
電子棚札と顔認証決済が「データ収集インフラ」になる
動的価格設定そのものは新しい概念ではない。航空券、ホテル、ライドシェアはすでに長年活用している。問題は、AIによってその精度とデータ量が質的に変わりつつある点だ。
現在、KrogerやAmazon Fresh、Walmart、Whole Foods、英国のTesco・Morrisons・Asdaなどで電子棚札(ESL: Electronic Shelf Label)の導入が進んでいる。ESLは店内の商品価格をデジタル画面で表示する仕組みで、価格をリアルタイムで書き換えられる。
さらに、フィンテック企業のRevolut(英国)は一部のコーヒーショップで顔認証決済の試験運用を実施した。視線を向けるだけで決済が完了するこの仕組みは、同時に顧客の行動データを蓄積する。
ロンドン大学イーストロンドン校の商業法シニアレクチャラー、Miroslava Marinova氏はCNBCに対して次のように述べた。
「動的価格設定とは、需要、タイミング、キャパシティ、競合他社の価格といった市場条件の変化に応じて価格を変えることだ。目新しいものではない。ただ、AIツールが企業の消費者データ収集能力を根本から変えている。取引履歴、閲覧行動、位置情報、購買パターンがすべて対象になる」
英国のスーパーマーケット大手Sainsbury'sは今週、「SmartLists」というAI機能をリリースした。写真をアップロードするか食事のアイデアを入力するだけで買い物リストを自動生成する機能だ。便利な機能の裏で収集されるデータが、価格設定に転用される可能性を指摘する声もある。
「動的価格」と「個人別価格」の境界が消える
英国中央銀行(Bank of England)の副総裁(金融政策担当)Clare LombardelliとシニアエコノミストRupal Patelは今年4月、より高度な技術の普及により価格変動の頻度が上がり、同時に個人化が進んでいると指摘した。行き着く先は、「消費者が支払える最大額に限りなく近い価格を各自に提示する」いわゆる「完全価格差別(perfect price discrimination)」だとしている。完全価格差別とは経済学の概念で、売り手が各買い手の「最大支払意欲(Willingness to Pay)」を正確に把握し、一人ひとりに異なる最高値を提示することで余剰を売り手側がすべて吸収する状態を指す。
この状況は統計上の問題も引き起こす。消費者物価指数(CPI)は「代表的な価格サンプル」を基に算出されるが、価格が消費者ごとに異なる状態では、何が「代表的な価格」なのかが定まらなくなる。LombardelliとPatelは「価格が継続的に変動し、しかも消費者ごとに異なるなら、『代表的な価格』という概念自体が崩れる」と述べている。
Marinova氏も同様の懸念を示す。
「企業が市場レベルの情報と詳細な消費者データを組み合わせるにつれ、動的価格設定と個人別価格設定の境界は薄くなっていく」
法規制の動きと消費者への影響
WalmartとKrogerは、動的価格設定で個人別価格を設定しているわけではなく、あくまで業務効率化のためのツールだと公式に主張している。一方で、米国の複数の州はデータ駆動型価格設定への規制に動いている。ニューヨーク州は顧客の個人データを使って価格設定を行うほとんどの事業者に対しその旨の明示を義務付け、メリーランド州は食品小売業者とデリバリーサービスによる個人別・データ駆動型の価格設定を制限している。ニュージャージー州・コネチカット州では「監視価格設定(surveillance pricing)」を対象とした規制がすでに制定されている。
個人別価格設定がすべて消費者の不利益になるわけではない。値引きによって特定層の購買機会が広がる側面もある。ただしMarinova氏は本質的なリスクをこう整理する。
「自分が提示された価格が市場の一般条件を反映しているのか、それとも自分の行動情報に基づくものなのかが消費者にはわからなくなる。価格の比較ができなくなれば、消費者の選択による市場の規律機能が弱まる」
LombardelliとPatelも、個人別価格設定は「消費者体験を断片化させ、世帯ごとにインフレ率が異なる状態を生む」と警告している。
詳細はAI may change the price of your Big Mac and groceriesを参照していただきたい。




